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「いろいろなカビ毒 パツリン」について

カビ毒については、有害物質として検査を行っています。この度、食品衛生関係雑誌にカビ毒に関する情報提供があったので概要をまとめました。

パツリンについて 

はじめに 
 パツリンは、りんごジユースに検出されるカビ毒です。 
パツリンは1942年にカビがつくる抗菌作用のある物質として最初に発見され、抗生物質候補として研究されました。しかし、まもなく毒性が高いことがわかり、医薬品としての開発は断念されました。その後、各種食品から検出されることが報告され、特にりんごジュースで濃度が高いことがわかりました。 
 
産生される仕組み 
 りんごが台風などで傷ついたり地上に落果したりすると、土壌中のペニシリウム属(Penicillium、アオカビ)またはアスペルギルス属(Aspergillus、コウジカビ)のカビが傷口から中に入ります。それらが時間経過とともに、りんごの中で増殖してパツリンをつくります。落果したりんごはジユースなどに加工されることが多く、ときどき非常に高い濃度の汚染が検出されています。りんごジュースの摂取量は、成人よりも子どものほうが多く、より影響を受けやすいため問題になります。 
 パツリンの動物での毒性影響は、短期では消化管の充血、出血、潰瘍などで、長期では体重の増加抑制などが報告されています。発がん性はないと考えられています。 
 
国内外での基準 
 FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)がラットでの長期試験での体重減少を指標にして、暫定最大耐容一日摂取量(PMTDI)0.4μg/kg体重/日を設定しています。 
 日本では2003年に食品安全委員会がパツリンの暫定耐容一日摂取量(PTDI)0.40.4μg/kg体重/日を確認しています。 
 パツリンの特徴として、食品で汚染が問題になるのは、ほぼりんごだけなので、りんごジュースの摂取量でこの安全性の目安量を超えないように基準が設定されています。 
 日本では、2003年に食品衛生法に基づく清涼飲料水の成分規格として、りんごジュースおよび原料用りんご果汁について、パツリンの基準値は0.050ppm(50μg /kg)と定められ 
ています。この値はコーデックス委員会の設定したりんご果汁の国際基準と同じです。 
 
パツリソを原因とした食中毒を防ぐために 
 カビ毒の汚染の一般的な特徴として、汚染はごく一部に限定されるものの、汚染された部分では濃度が高い、ということがあります。文献では、りんご果汁のパツリン濃度として数百μg /kgといつた数値が報告されています。 
 したがつて、生産段階で汚染されたりんごが食品流通に入らないように、生産者に対して徹底した管理が求められています。具体的には、りんごに傷がつかないようにていねいに収穫すること、傷や腐った部分のある果実は確実に選別することなどです。さらに、保管の際にカビが増殖しないように、温度や湿度を管理するよう指導されています。 
 農林水産省が2002~2005年に、約680点の国産原料りんご果汁などを調査した結果、すべて基準以下で、かつほとんどのりんご果汁ではパツリンの濃度は10μg /kg未満であったと報告しています。 
最近ではSDGsや食品ロスを減らそうという掛け声のもとで、規格外の捨てられる野菜や果物の積極的利用が推進されていますが、リスクとなる場合があることは覚えておいてください。果物に傷などがなく見た目がきれいであるということは安全のためにも大事なことなのです。  

畝山 智香子(うねやま ちかこ)  
薬学博士。東北大学薬学部卒。国立衛生試験所安全性生物試験研究センター病理部を経て、前。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長。  
現在、(公社)日本食品衛生協会学術顧問。  
出典 食と健康 2025.12 (公社)日本食品衛生協会  

【本件に関するお問い合わせ先】
一般社団法人埼玉県食品衛生協会検査センター
電話番号 048-649-5331