「ノロウイルス対策への提言」がありました。
「ノロウイルス食中毒予防強化期間」にあたって
食品衛生研究 2024.12 Vol.74
公益社団法人日本食品衛生協会
常務理事 道野 英司
毎年11月から3月までは、多くのノロウイルス食中毒が報告されます。食中毒統計によると、昨年の患者数2人以上の事件数の3割、患者総数の5割がノロウイルス食中毒とされています。
原因施設は飲食店、給食施設、仕出し屋、旅館などがほとんどを占めており、平成28年の調査によるとノロウイルス食中毒の80%が調理従事者からのウイルス汚染であり、25%は下痢、嘔吐などの症状のある有症者、55%は無症状病原体保有者とされています。
これは家庭、保育所、学校、高齢者施設などの日常生活の中で感染者の糞便に含まれるウイルスが手指を介して感染し、地域での散発発生、さらに流行を引き起こしており、調理従事者は日常生活の中で感染リスクに曝されているためです。
ノロウイルスに感染した調理従事者からの食品汚染リスクを低減するには、始業前の健康確認を通じて有症者の食品を直接取り扱う作業への従事を避け、適切な手洗いを励行することが極めて重要です。
公益社団法人日本食品衛生協会では、 ノロウイルスによる食中毒の予防を日的に、厚生労働省、消費者庁などの関係省庁、地方行政関係団体、消費者団体、食品関係団体、 食品等事業者などの協力を得て、毎年11月から2月までを「ノロウイルス食中毒予防強化期間」と定め、全国の食品衛生協会と連携して、白主的な衛生管理の徹底、予防に関する情報提供を推進するとともに、食品街生指導員の「手洗いマイスター」による適切な手洗いの普及に取り組んでいます。
また、無症状病原体保有者の確認には検便が必要ですが、「大量調理施設の衛生管理マニュアル」では、流行時期の10月から3月までの間に月1回以上、又は家族などに感染性胃腸炎が疑われる有症者がいる際や病原微生物検出情報の検出増加時などに実施に努める旨の規定にとどまっています。
一方で、改正食品衛生法による「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書」では、ベんとう、そうざい、製バン、セントラルキッチン、旅館、ホテルなどでノロウイルスの検便の実施を規定しています。
現在、ノロウイルス検査は広く普及し、低コスト化されており、調理従事者の一部又は全てを対象としたスクリーニング検便や検便間隔の短縮など、検便を組み込んだ予防対策の実効性の向上に取り組みやすい状況が整ってきました。
無論、食品産業の現場では人手不足が深刻で、検査陽性者、有症状者、家族が発症している者を単に自宅待機とするのではなく、感染防止対策を徹底し、飲食物に直接触れない感染リスクの低い作業に一時的に変更するなどの対応も考えていく必要があります。
コロナウイルスのパンデミックが記憶に新しく、感染対策の導入に対する社会の理解が高まっている今こそ、ノロウイルス対策を積極的に進めていく好機ととらえ、 さらなる予防対策に取り組んでいくことを提案させていただきます。