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HACCPの普及と導入後の効果等について

厚生労働省が行った食品衛生法改正事項実態把握等事業におけるHACCPの実施状況・導入効果等の調査、検証について、食品衛生研究 Vol.74.No.6(2024)に掲載されました。一部を抜粋して紹介します。

食品等事業者団体が作成したHACCPに沿った衛生管理のための業種別手引書 解説より(抜粋) 食品衛生研究 Vol.74.No.6(2024)

 

Ⅲ 今後の手引書によるHACCPの普及について

1 次の段階ヘ

厚生労働省が行った食品衛生法改正事項実態把握等事業におけるHACCPの実施状況・導入効果等の調査、検証では、飲食業(令和3年度調査、無作為抽出、n=25,966、令和5年度追加調査)における導入時の課題等については、「研修・指導を受ける適切な機会が少なかった(行政による研修の機会)」との回答が30.8%、「HACCPの運用に係るモニタリングや記録の手間(金銭以外の問題)がかかる」との回答が29.1% 、「HACCP導入の手間(金銭以外の手間)」との回答が27.4%となっていた。令和5年度の追加調査(定性)においては、「HACCPの運用に係るモニタリングや記録の手間(金銭以外の問題)がかかる」との回答が、令和3年と比較して約30ポイント増加しており、実際に運用を行ったところモニタリングや記録の手間が大きな問題となったことが挙げられていた。

HACCPに沿った衛生管理のポイントの一つは、衛生管理の「見える化」であり、モニタリング等の記録を残すことである。記録を残すことの意味を知り、理解を深め、確実に実施することで、 自身の衛生管理が適正に実施されていたことの「見える化」につながり、適切にPDCAサイクルを回すことができる。

義務化当初は、まず実施し慣れるために、衛生管理計画を手引書のとおり記載していた事業者も少なくないと考えられる。また、前述のとおり、記録はしていても、毎日「○」の記録ばかりで、必要性が理解できず記録をやめてしまった例もある。

義務化後、一定期間が経過し、ある程度定着が図られた施設においては、改めてHACCPのもつ意味を考え、 自施設で取り扱う食品のハザードを理解して衛生管理を実施する必要がある。

衛生管理計画は自施設に沿ったものとし、 日々の記録では衛生上の気づきなども記入し、振り返りも行う。単にチェックする方式の計画や記録ではなく、作業を繰り返していくなかで感じた変化や違和感なども記載する習慣をつけるなど、次の段階に差し掛かっているといえる。

 

2 事業者自らが継続して実施できるために

前述の厚生労働省の調査において、事業者が感じているHACCPの導入効果については業種により差はあるものの、「品質・安全性が向上した」「従業員の意識が向上した」「管理者(経営者含む)の意識が向上した」との回答が高い割合を占めていた。特に「品質。安全性が向上した」との回答については、飲食店営業では約85%と非常に高かった。令和5年に実施した飲食業における追加調査では、「従業員の意識が向上した」との回答が15ポイント増加しており、HACCPに沿った衛生管理を継続して実施することにより、従業員の意識向上については、実際に効果が得られていると考えられる。また、今後、保健所へ期待する内容として、「演習がある研修会の開催」ゃ「自店への訪間による指導」など、 より具体的な助言が望まれている。

今後、 これまでの取組みが形骸化しないように、事業者自らが適切にPDCAサイクルを回すことが望まれる。そのため、危害要因(ハザード)の例等を参考にして記入式の様式に自らが考えて記載をすること、ハザードの管理を考えチェック方法の理解を深めること、振り返りを実施して少しずつ改善を図ることが必要になってくる。保健所や関係団体等においては、 これらの内容について「演習がある研修会」などを継続して実施し、情報提供することが必要であると考える。

また、保健所や食品衛生指導員らを外部の相談役として、適切なアドバイスを受けることも、形骸化を防止することに役立つものと考えられる。

他方で、HACCPに沿った衛生管理を事業者のモチベーションの維持・向上につなげることも必要である。前述の調査では、原料等の適切な在庫(期限)管理を行うことにより食品ロスが削減し、その結果、売り上げの増加に結びついたとの意見があった。単にHACCPを義務として実施するのではなく、自らが提供する食品の安全性確保に加えて、「クレームの減少」「製品イメージ、企業(店舗)イメージの向上」などにつながることについて事業者に事例紹介することができれば継続実施につながるであろう。