「今後重要になる可能性があるカビ毒」について
カビ毒については、有害物質として検査を行っています。この度、食品衛生関係雑誌にカビ毒に関する情報提供があったので概要をまとめました。
カビ毒と抗生物質
自然界に存在する多様な真菌(カビ)には、ヒトや動物に対して有害影響をもつ物質をつくり出すものがいます。
これら有害作用をもつ二次代謝産物をカビ毒あるいはマイコトキシンと総称します。
似たような総称として、カビがつくる細菌などの微生物の生育、あるいは生存を阻害する物質のことを指す「抗生物質」があります。
カビ毒も抗生物質もカビのつくる二次代謝産物で、それぞれ食と医療の分野で研究されてきたものです。
※生物が生存や成長のために合成、あるいは必要なエネルギーを得るために分解するような物質のことを一次代謝産物と呼び、成長や生殖には直接関与しない有機化合物を二次代謝産物といいます。
カビ毒の種類
これまでいろいろな種類のカビから、たくさんのカビ毒が報告され、300種以上が知られていますが、まだまだ未知のものがあるだろうと考えられています。
一般的に食品の汚染として問題になることが多いものについては、食品中基準値が設定されています。次のものが代表的です。
●とうもろこし。穀類や落花生などの「アフラトキシン類」
●穀類やコーヒー・ココアなどの「オクラトキシンA」
●小麦や大麦などのデオキシニバレノール・ニバレノール
●りんごなどのパツリン
管理の重要性
一般的にこれらカビ毒の多くは、熱で壊れず、加工や調理によって毒性が低減することがないため、カビ毒汚染のある農産物はカビを殺しても食べることができません。そのため生産や貯蔵段階でのカビの付着、増殖やカビ毒の発生を防止することが重要になります。
ただ基準が設定されていないものは問題ないというわけではなく、今後の気候条件や食生活など、環境の変化によってカビ毒の重要性はますます増加すると考えられているので、新たに設定される基準は増えるでしょう。
カビ毒をつくるかどうかについてよくわかっていなくても、カビの発生を管理することは重要です。食品や飼料に本来あるべきではないカビが発生していたら、それはカビ毒の検出の有無にかかわらず食べないのが基本です。
カビがそれほど目に見えていなくてもカビ毒ができている場合もあります。
機能性表示食品での発生事例
2024年3月に発覚した、小林製薬株式会社の販売した紅麹を含む機能性表示食品による多数の健康被害は、製品製造時に混入した青カビがプベルル酸という有害物質、つまりカビ毒をつくったことが原因である可能性が示唆されています。プベルル酸という化合物自体は、文献で報告されていましたが、それが食品に含まれる可能性や有害影響についての情報はほとんどありませんでした。自然界には、人間の知らないことがまだまだたくさんあります。湿度と気温が高く、カビの生育しやすい日本のような国では、カビ毒は優先的に警戒すべきリスク要因です。
畝山 智香子(うねやま ちかこ)
薬学博士。東北大学薬学部卒。国立衛生試験所安全性生物試験研究センター病理部を経て、前。国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長。
現在、(公社)日本食品衛生協会学術顧問。
出典 食と健康 2025.10 (公社)日本食品衛生協会

【本件に関するお問い合わせ先】
一般社団法人埼玉県食品衛生協会検査センター
電話番号 048-649-5331